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これが私の薬剤師ライフ
~ 6年制卒50人がキャリアを語る ~

あなたは薬剤師としてどんなキャリアを歩んでいますか?
本コラムでは、6年制薬科大・薬学部卒の現役薬剤師たちが、これまでのキャリアの中で悩んだことや失敗したことなど自身に影響を与えたエピソードを交えて、どのような薬剤師を目指して日々奮闘しているのかを発信します。

"人として"の薬剤師の可能性を広げるために
病院薬剤師からスタートアップの社員に転身

  • 施設区分#企業 #病院
  • キーワード#キャリアチェンジ #転職経験

 「薬剤師って要らなくなるんじゃない?」。私が大学4年生のとき、“薬剤師不要論”が話題になりました。医療分野においてもIT化が注目され始めた時期で、テクノロジーの進化によって薬剤師という専門職も不要になるのではという話が耳に入ってきたのです。

 当時の私は、臨床実習も始まっておらず、それに対して意見や判断ができるほど、薬剤師という仕事をあまりよく分かっていませんでした。しかし、薬剤師が不要になるという考えは受け入れ難かったことを覚えています。

 確かに薬剤師でなくてもできる業務はあるかもしれませんが、薬剤師資格を持った“人”にしかできない業務が必ずあるはず。テクノロジーは薬剤師という職業を排除するのではなく、むしろ薬剤師の社会的活躍を後押しするのではないかと考えました。そして、卒業後は自分自身がもっと薬剤師という職業を知り、薬剤師の可能性を広げる仕事をしてみたいと思うようになったのです。

実習中に病院薬剤師のイメージが一転

 薬剤師という職種に向き合うために、まず自らが薬剤師として臨床現場に立ちたいと考え、最初の就職先として病院で働くことを決めました。

 臨床の中でも病院を選択した理由は、キャリアの選択肢の幅を広げられそうと思ったことと、学生時代の病院実習でお世話になった指導薬剤師の姿に感銘を受けたことがあります。それまで病院で働く薬剤師に対するイメージがなかったのですが、実習期間中、医師や看護師と議論し、てきぱきと薬に関する方針を提案している指導薬剤師の姿を目にしました。先輩の姿は患者に対する強い責任感と自信に満ちあふれていて、一医療従事者としてとても頼もしく映りました。

 新卒で勤めた病院は、都内にある病床数500床超の三次救急病院でした。2年目になり病棟業務を担当するようになると、毎日入院患者と話すようになり、医師や看護師などと治療について議論することも増えました。また病棟業務以外でも、外来化学療法チームを兼務してがん患者への服薬指導を行ったり、地域の薬局薬剤師や他職種との勉強会に参加したり、学会で発表したりと、本当に多様な経験を積むことができました。

 そうやって多くの患者や医療者と接する中、私は改めて薬剤師という仕事に魅せられました。単に薬の説明をするだけでなく、薬を軸として患者の生活背景を踏まえながらコミュニケーションを図り、どうやったら退院後も治療を続けられるかを考えて行動する。時には、患者から1時間以上も身の上話を聞くこともありましたが、その会話の中にヒントがあったり、会話から生まれる信頼関係が服薬アドヒアランス向上につながったりすることもありました。医師や看護師らからも「患者さんが服薬に不安があるので、薬剤師さんから話してほしい」と言われることもしばしばあり、とてもやりがいを感じる毎日でした。

業界の課題と向き合うために臨床を離れることを決意

 そんな私は、1分1秒でも多く患者と向き合う時間を確保したいと思う一方で、カルテを記入する“カルテ残業”に頭を悩ませていました。もちろん記録は重要ですが、患者のところに行けば行くほど記録業務の時間が長くなる。もっと様々な作業やオペレーションを効率化すれば、薬剤師の価値をもっと発揮できるのにというジレンマを抱えていました。「対物業務は効率化して、対人業務に集中したい」。これはきっと自分だけではなく、多くの臨床に立つ薬剤師が考えていることだろうと思っていました。

 ただ、一病院の薬剤師では現状を動かすのは難しそうだとも感じていました。それに、今私が見ている課題は一病院の一部にすぎないとも思っていました。薬剤師の業界を改善するためには、もっと広く業界を俯瞰(ふかん)して課題を捉える必要がある。そう考えた私は、病院薬剤師として3年勤めた後、臨床現場を離れることを決意しました。日々の仕事に非常にやりがいを感じていましたが、それ以上に挑戦してみたいという気持ちが強くなったのです。臨床経験しかない自分が臨床現場以外で通用するのかという不安はありましたが、やらずに後悔するよりは、やって後悔したい。それならば心を決めるのは早い方がいいというのが、私の持論でした。

コンサルファームで臨床外の視点を育む

 最初の転職は、医療系のコンサルファームでした。薬剤師業界に限らず、広くヘルスケアという枠組みで捉えた課題解決を事業としており、私自身は、自治体向けの地域包括ケアシステムの構築支援や、企業の医療ビジネス参入モデルの構築といった仕事を担当させてもらいました。

 転職して、働き方や思考など何もかもが新鮮でした。病院に勤務していた頃は、その日その日に出会う患者を中心に業務を行っていたのに対し、コンサルファームでは数カ月のプロジェクト単位で物事が動きます。自治体や企業と事業ベースで議論するのは初めてでしたし、論理的思考力や情報処理能力など、臨床とはまた違ったスキルが求められました。毎日ついていくことに必死でしたが、今まで知らなかった世界を知ることは非常に楽しく、医療業界の様々な課題を臨床外の視点で見ることができたのは、視野拡大になるようなとても大きな学びでした。

 そんな中で、もともとの願いだった「薬剤師業界の課題解決と可能性の拡大」について、より深く糸口を探るため、薬局経営者や患者の方々と定期的な勉強会を始めました。そこで出会ったのが、カケハシの社長、中尾豊さんです。

目指したい世界そのものの会社に出合う

 中尾社長は、私が開いた勉強会のゲストとして来てくれました。勉強会当日、社長のプレゼンを聞いた私は感激しました。テクノロジーの力を使って、薬剤師業務を効率化し、対人業務の価値を向上させる。まさに、“人として”の薬剤師の価値を追求したいという私がやりたいことそのものを事業としていたのです。ありがたいことに、その後、中尾社長からお声がけいただき、私は二つ返事でカケハシへの転職を決めました。

 2度目の転職だったこともあり、キャリアチェンジに対する不安はありませんでした。スタートアップかどうかは転職要素としては重要ではなかったものの、小さい組織ならではの課題解決のスピード感などは、私の性格にもとても合っていたようです。また、1つのことを突き詰めるより、マルチに自分の可能性を広げたい私にとってはぴったりの環境でした。

 当社がターゲットとしているのは主に薬局業界であり、病院出身の自分としては改めて学ぶことも多くありましたが、薬剤師の価値向上に貢献するという意味では広く共通であり、私自身が今まで歩んできたキャリアも、多方面で生かすことができています。

 薬局・薬剤師の業界は、2015年に厚生労働省が提唱した「患者のための薬局ビジョン」に続き、ピッキングおよび一包化した薬剤の数量確認などについて、一定の要件を満たせば非薬剤師の補助を認める、いわゆる「0402通知」の発出や、薬剤師による服薬期間中のフォローアップを義務付けた「改正医薬品医療機器等法」(薬機法)の施行などを経て、大きな変革を求められています。

 そうした中で当社は、「日本の医療体験を、しなやかに。」というミッションの下、医療の受け手と担い手、双方の医療体験を改善すべく、様々なサービスを展開しています。薬局のDX化を推進し、患者の満足度を上げ、薬局の働き方改革を支援する薬局体験アシスタント「Musubi」、薬局業務をデータとして可視化し改善につなげる「Musubi Insight」、患者と薬剤師を直接結ぶ「Pocket Musubi」。いずれも患者と薬剤師の医療体験向上を基軸として生み出されたものです。

 私はその中でも、カスタマーサクセスチームに所属し、ユーザーの皆さんにより快適にサービスを使っていただけるよう、様々な情報を発信したり、ユーザーサイトの運営を行ったりしています。臨床時代には想像がつかなかった働き方ですが、より自分がやりたいことに近づけている実感があります。

 「テクノロジーをうまく活用しながら、より患者に寄り添う“人として”の薬剤師の価値を最大化したい」。学生の頃にぼんやりと抱いていたあの思いを現実のものとするべく、これからもこの業界で、薬剤師の皆さんとともに走り続けたいと思います。

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自分のやりたいことを問い続ければ行動につながる

 「もし今日が自分の人生最後の日だとしたら、今日やる予定のことを私は本当にやりたいだろうか」――。米アップルの創業者であるスティーブ・ジョブズが大学の卒業祝賀スピーチで述べた有名な言葉で、私が好きな言葉の1つです。

 キャリアチェンジは人生における大きな決断の1つでしょう。特に臨床を離れるかどうかということに、迷われる方も多くいるかと思います。結婚・出産・子育てといったライフスタイルの変化がキャリアに影響するかもしれません。それは人それぞれの考え方がありますし、私の考えを押し付ける気は全くありません。

 ただ、「自分が本当にやりたいことは何か」と考え続けることは大事だと思っています。考え続けることで、「少し情報を収集してみようか」「人の話を聞いてみようか」など、おのずと行動につながります。キャリアチェンジを考えている方に、私の経験と共に、その一歩を応援する声を届けられたらうれしく思います。

著者プロフィール

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近藤 優美子(こんどう ゆみこ)
株式会社カケハシ カスタマーサクセス

■略歴
2014年 東京大学薬学部薬学科を卒業後、都内の急性期病院に入職。
2017年 医療系コンサルファームへ転職。自治体向けの地域包括ケアシステム構築支援や、企業の医療ビジネスモデル構築に携わる。
2018年 医療系スタートアップ、カケハシに入社。カスタマーサクセスを担当。

※本内容は2021年09月28日時点

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